English version : Story 3. Independent
一個の生命体「種」
種の形をした一輪挿し。
草花をいけると、種から芽が出てそのまま茎となり、花が咲いているように見える。
花瓶の造形は、ココヤシとピスタチオを参考にした。
南国の砂浜に、落ちているヤシの実から芽が出ている様子。ピスタチオの硬い殻から芽が出ている様子をイメージした。
種に水を与えると、発芽して根を伸ばす。
種一粒には一連の活動に必要な栄養素が内包されている。「種」が持つ、エネルギー、強さ、潜在性を感じさせるカタチを目指した。
下部の設置面を小さくし、少し地面から浮いているように見える様に工夫をした。
すべてから独立したもの
前作[Dimension]では、壁と花瓶の境目を無くすこと、壁と花瓶の融合がテーマだった。
造形のテーマとしては、できるだけ花瓶の存在感を無くすことと、壁との一体化を目指していたものだった。
今回はその反対に、花瓶の独立性をテーマに考えてみた。どこに置かれたとしても花瓶として存在するものー を形にする。
そこで今一度、花瓶が花瓶として識別される最小単位を考えることにした。
花を入れれば、多くのものは花器として成立する。
例えば、コップや試験管も花器として使われている。
そう考えると、花器としての必要要件は、”水が入ること”や”棒状のものを支えること”だ。それらの要件は、多くの容器にとって、特別な条件ではなくとても一般的なことだ。
それならば、その容器が花器であることを定義づけるのは、”花が置かれていること”や”そこに飾ろうとする人の意志”となる。
花を容器に入れた瞬間に、その容器は花器になる。
逆に、花を入れない限りは、花器であることを人に認識させることは難しいことかもしれない。
容器に入っている液体がお酒なのか雑菌達が楽しく暮らしている水なのか、その答えは飲んでみるまでは分からない。
花を入れる前に、その容器が花器であることを明確にするにはどうすればいいか。
それは容器の形状が”花”と関連していることが有効だと考えた。
花と関連した形こそが、その容器を花瓶らしくする要件になるのだろう。
このコンセプトをより具体化するために、”花”のアイデンティティ・独立性を考えてみる。
花の生命は、種から始まって最終的に枯れて終わる。花が地面に根差していても、つまれて花束のひとつになっても、花瓶に挿されていても「枯れる」までが、その花の寿命である。
花粉を通じて繁殖する連続性はあれど、花単体としては、ひとつの種からはじまるひとつの生命体だ。種からはじまり、種を残して終わる。
「種」は、未来の花(花を挿すこと)を予感させる。
「種」は命のはじまりと終わりを象徴する形だ。それは本作の”独立性”の表現としてぴったりだ。
「願い」や「祈り」に似たもの
ひとつの生命体として相手を認識すること・尊重することは、相手を「自分とは異なるもの・離れたもの」と定義することとも言える。その際に、自分が相手に干渉する範囲を決めたり、自分ができることを諦めたりする。それは子離れ、親離れの時にある感情にも見られる。そのほかに仕事仲間の転職や組織変更、子供の卒業式、結婚などおめでたい時もあれば、友人が大変な状況に置かれていても自分ができることが限られている時などの難しい場合もある。
しかしどの場合においても、相手を独立したものとして捉えて「自分が関われなくても、うまくいってほしい」「幸せになって欲しい」とも思うものである。
この思いは、神様や運命のようなものに願ったり、祈ったりするものに近いかもしれない。
「祈り」を種の形の花瓶に込めた。